やさぐれ歯科医院

白い天使クリスチャン・ゼル博士を目指す歯科医の戯言

歯科業界よくある誤解 「うがい薬 2」

口腔内消毒のためのうがい薬

うがい薬の続きといきましょう。みんな大好きうがい薬ですが、口腔外科の先生達にはヨード系が人気のようです。安価なパチもん(ジェネリック)も出ていますが、やはりヨード系といえばイソジンガーグル。小さい子にも歓楽街でも大人気の一品です。

僕も卒業して某講座に入局した時はつべこべ言わずに出せ!と上の先生から言われ渋々処方したものです。

ではそのイソジンガーグル、どれくらいの時間効き目があると思いますか?

イソジンガーグルの消毒効果

実は菌数だけなら10分も経たずに元通りです。

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含嗽剤の殺菌効果の比較検討 第2報 -市販含嗽剤について-. 日本病院薬剤師会雑誌. 2005

培養の関係から嫌気性菌は対象になっていませんが、7%ポピドンヨード(イソジン)を15倍稀釈(添付文書上は15~30倍稀釈)で10秒間3回もうがいしてこんなもんですよ。小学校の休み時間が10分でしたから、休み時間に入ってクチュクチュうがいして授業が始まる頃には「振り出しに戻る」って、これ一体何に効いてんの?と疑わざるを得ません。3分しか持たないウルトラマンよりは多少長く戦えるといった程度。

しかし、ウルトラマンは戦って結果を残しますが、イソジンガーグルはそれなりの結果は残せているのでしょうか?

イソジンガーグル添付文書には…

添付文書の効能効果には「咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防、口腔内の消毒」とあります。消毒薬ですので消毒効果は置いておいて、本題の実際に口腔創傷の「感染予防」が証明できている文献があるかというと、調べましたがこれが皆無。仕方ないので販売元の明治製菓ファルマに「文献ください!」とお願いしましたが、送られてきたものは「使った・治った・効いた」という比較対照のない典型的なダメ論文のお手本と言われる「3た療法」論文と、菌液と消毒薬を混ぜたら菌数が減りましたという論文ばかり。

こちらが求めている「感染が減りました」とはかなり隔たりがあるので、こんな内容でどうやってこの効能効果の認可取ったんですか?と聞いたら「昔過ぎて(経緯の)資料がありません」「一時的にでも菌数減る=感染が減る、です!」と強弁され話が平行線になったので話は打ち切り。

ぐはー。この「菌数減る=感染減る」は勘違いも甚だしいのですが、残念ながら大真面目にそう考えている歯科医師が多いのも事実。OPE室とか清潔不潔とか…これに関してはまた後日。

うがい薬は効くの?効かないの?

術後に処方されるうがい薬は、結局のところ「術後に創部を消毒すれば良い効果はあるのか」ということです。もともと人体の消毒という概念は19世紀半ばのセンメルヴェイスやリスター達まで遡りますが、詳細は面倒なので省略。興味ある方は御自分で調べてください。

そんなこんなで、200年近くも延々と受け継がれてきた「傷を消毒すれば化膿しない」という考えは、医療者どころか一般市民の子供まで知っている一大宗教となり、救急箱からマキロンやオロナイン軟膏を取り出して傷につけては「痛たたた…でも効いているぜー!」と、みな純粋に思っていました。

イメージとしては、まさに某世紀末救世主伝説のこれ

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消毒薬の激痛に苦しむ患者を見ても「この痛みこそがバイキンを駆逐している証!」とせっせと消毒にはげんでいたわけです。

しかしながら、もともと消毒薬に細胞毒性があるという知識は知られていました。治癒を遅らせる可能性があると知っている歯科医師の先生達もいましたが、僕の知っているそういう先生達ですら、治癒が遅れても感染を減らす方が優先!と、わりきって消毒していました。

アンチ消毒派の台頭

ところが、近年(昔から「意味が無い」と主張していた先生達がいるので正確には近年になってようやく花開いた…ということですが…)一大転機が起こりました。傷は消毒しても意味は無い、意味は無いどころか感染は増え治癒は遅らせるという、何のためにしているのかよくわからないことになりました。

【Do not use antiseptics such as hydrogen peroxide or iodine. They can damage sensitive tissue and prevent healing.】

U. S. Department of Health Care Policy and ResearchPressure ulcer treatment. Clinical Guidline Number 15

 

【SSI(手術部位感染)予防のためには術後の創消毒は原則不要であると思われた。】

手術部位感染(surgical site infection)に関する検討. 整形・災害外科. 2007

 

【消毒薬を使用しない創処置でも術後SSIの発生は増加せず、消毒薬の使用はSSIの予防に寄与しないことが検証された。】【in vivo、in vitroともにポピヨンヨードのみならずグルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウムの消毒薬でも組織に対する毒性が証明されており、創傷治癒の観点からは消毒薬は創傷に使用しないことが望ましい。】

消毒薬を使用しない術後創処置の有用性とその経済効果. 日本臨床外科学会雑誌. 2010

 

【創消毒神話の真偽は読者もよくご存知の通り『意味が無い』である。創消毒は、創部の感染率を減少させることもなく、また、創部の細菌数にも何ら変化をもたらさなかった。さらに、消毒薬の殺細胞効果によって、かえって創傷治癒を遅延させるという報告が多数見られるようになっている。つまり、SSIに関してEBMの観点からは、創消毒は意味がないというよりも、もはや罪悪とまでに考えられるようになってきているのが現状である。】

感染を防ぐ 26年前、不思議なお作法を教えてくれた看護師へ 昨日の常識、今日の非常識. Lisa(麻酔科医の雑誌 著者は外科医). 2013

論文中のデータ見せればいいんでしょうが、興味ある人は読んでみて下さい。セミナーなんかに出てる人達は「データや機序や経過はいらんから結果だけ教えろや」という人が九割九分だと思っているのでこんな書き方にしてます。

何故意味のない消毒を続けるのか

繰り返しますが、昔から「創部消毒は意味がない」という意見はあったのですが、多勢に無勢、「そんなバカな話があるか!」と聞く耳持ってもらえず叩かれ続け、陽の目を見るまでに時間がかかっただけなのです。

で、前回の歯科医師会のおエラいさんの台詞「抜歯後や切開、手術といった観血処置の後に含漱剤を単独で処方するケースは少なくない。それらは診断に基づき医学的見地から治療の一環として行われるものである」は一体どんな医学的見地なのかと。

いまだにこんなトンデモ医療を若い先生達が信じているのは、ガンガンに消毒しまくっている全国の歯学部・総合病院口腔外科の教育が悪い、の一点しかないのですが、いやはやどうしたもんでしょうね。

最後は愚痴になってしまいましたが、これでもあなたはまだ創部の消毒やイソジンガーグルを処方しますか?「じゃあ明日からはネオステリングリーンにしよう!」という歯科医師が出てこないことを祈りつつ今回はこれまで・・・。